防衛省 海上自衛隊の歯科について

海上自衛隊 気になる歯科情報

私は2004年3月に日本大学松戸歯学部を卒業後、同月末に防衛省海上自衛隊に入隊し、2015年まで11年間、歯科医官として勤務させて頂いておりました。歯科の中では、あまり認知されていない海上自衛隊の歯科ですが、学べる環境が整っており私にとっては大変貴重な経験をさせて頂きました。今回の記事では、私の経験を中心に海上自衛隊の歯科についてまとめました。

スポンサーリンク

海上自衛隊の訓練について

海上自衛隊に入隊後は幹部候補生として任官します。はじめに、広島県江田島にある海上自衛隊幹部候補生学校で約2ヶ月の間、同期の医官・歯科医官とともに幹部自衛官としての教育と訓練を受けます。

海上自衛隊の研修医教育について

6月から神奈川県横須賀市にある自衛隊横須賀病院 歯科診療部にて、歯科医師としての研修が始まります。主には一般歯科の研修ですが、病棟と手術室もあるため口腔外科の研修も行うことが出来ました(現在は異なるようです)。

その後は、防衛医科大学校病院の麻酔科と口腔外科で、それぞれ3カ月ずつの研修を受けます。全身疾患に対する研修ができ大変有意義な研修でした。

これらの幅広い歯科口腔外科研修は、海上自衛隊の歯科医官として、将来の艦艇勤務を見据えたものでした。長期出航中にの艦艇上で、自衛隊員等の顎顔面領域の歯科口腔外科疾患全般に対する診断、処置(応急処置)、後送の判断ができることが目的とされておりました。

海上自衛隊 歯科医官の環境について

2年間の研修終了後は、海上自衛隊の病院(大湊・横須賀・舞鶴・呉・佐世保)、衛生隊、艦艇等に勤務となり、その後は2~3年毎の転勤となります。
(※2022年3月より、海上自衛隊病院の再編と横須賀病院の機能強化のため、大湊・舞鶴・佐世保の病院は廃止となり、病床数を19床とした衛生隊診療所になっています。)

主な勤務内容は、歯科診療・歯科検診等の衛生業務です。また、衛生隊長の業務、艦艇での勤務、防衛省内の海上幕僚監部での行政配置等もあります。

海上自衛隊の病院や衛生隊には、歯科衛生士(防衛技官)や歯科技工士(自衛官)も勤務しています。
歯科衛生士と歯科技工士も病院(診療)や衛生隊(検診)での勤務が主となり、歯科技工士は自衛隊内の学校にて准看護師や救急救命士の資格を取り、様々な職務に付いている方もいます。

また、海上自衛官の健康管理のため、基地のある硫黄島や父島への検診支援の仕事もあります。
下記写真は、戦地となった摺鉢山(すりばちやま)などの硫黄島の写真になります。

自衛隊の医官や歯科医官には、通修という制度(週に1日)があり、外部の大学や病院で、学びたい分野の研修ができます。
また、国内留学という制度もあり、2年間フルタイムで外部の大学・病院・教育機関等で学ぶことができます(給与は防衛省から支給されます)。そのため、社会人大学院等での学位取得や各学会の専門医取得が可能となっています。

私の場合は、通修と国内留学を利用して、順天堂大学形成外科で幹細胞を用いた再生医療の研究をさせて頂き、医学博士の学位取得もできました。また、同時期に自衛隊横須賀病院での臨床も継続できたことにより、日本歯周病学会 専門医と日本口腔外科学会 認定医も取得することができました。

艦艇での勤務について

海上自衛隊で歯科診療所として届け出を出している艦艇としては、護衛艦(大型)、輸送艦、補給艦、練習艦、砕氷艦で計14隻あります(2023年1月現在)。

毎年、遠洋練習航海(練習艦「かしま」)・南極地域観測協力(砕氷艦「しらせ」)・ソマリア派遣(護衛艦等)など、何隻もの艦艇が長期の航海に出航するため、医官・歯科医官も艦艇に乗艦して勤務しています。また、災害派遣や各国海軍との合同医療支援の任務もあります。

練習艦「かしま」での世界1周について

遠洋練習航海は、実習幹部による洋上訓練や各国海軍との友好親善のために行われています。

私は平成22年度の遠洋練習航海(世界1周コース)に、練習艦隊司令部の歯科長として練習艦「かしま」に着任し、約5カ月間で11カ国・15寄港地を周る世界1周の航海をさせて頂きました。

歯科治療だけでなく、衛生の幹部自衛官として、隊員の健康管理が任務になります。

寄港地での各国海軍との交流や半年間の洋上勤務は、海上自衛隊の幕僚として大変貴重な経験でした。

東日本大震災での派遣について

2011年3月11日、東日本大震災が発生し、海上自衛隊は災害派遣命令により宮城県沖に多数の自衛艦を派出しました。現地の歯科医療機関の被害もあったため、海上自衛隊歯科も宮城県南三陸町および気仙沼市大島で診療支援を実施しました。

私は東日本大震災における歯科診療派遣の第1陣として、3月20日に厚木航空基地からヘリコプターにて被災地沿岸で活動する護衛艦「ひゅうが」に進出しました。その後、私たちは現地で4カ所の避難所を担当し、ポータブル歯科ユニット・コンプレッサー・発電機・歯科診療器材等を持参(毎日ヘリコプターでの移動)して、歯科診療を行いました。初めての経験で試行錯誤の連続でしたが貴重な経験をすることができたと思っております。

最後に

歯科医師として研鑽できる環境は数多くあると思いますが、海上自衛隊もその1つだと思います。
ただ、自衛隊では保険治療しかできず各学会の認定医や専門医は取得可能ですが、35歳以降では歯科臨床の仕事より、幹部自衛官としての仕事(海上幕僚幹部、衛生隊隊長)がメインとなることが多く、歯科医師としてのキャリアアップやレベル向上が難しいのも現実です。

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

AOI国際病院 歯科口腔外科
田島 聖士

【参考文献】
・田島聖士, 小野寺勉, 阿部公喜, 海老沢政人, 飯塚浩道: 東日本大震災直後における歯科診療ニーズおよび現地歯科医師会と海上自衛隊歯科による診療連携 宮城県本吉郡南三陸町と気仙沼市大島において. 口腔衛生会誌 63: 344–350, 2013.

東日本大震災直後における歯科診療ニーズおよび現地歯科医師会と海上自衛隊歯科による診療連携 : 宮城県本吉郡南三陸町と気仙沼市大島において
J-STAGE


・Tajima S, Tobita M, Orbay H, Hyakusoku H, Mizuno H: Direct and indirect effects of a combination of adipose-derived stem cells and platelet-rich plasma on bone regeneration. Tissue Eng. Part A 21, 895-905, 2015.

Direct and indirect effects of a combination of adipose-derived stem cells and platelet-rich plasma on bone regeneration - PubMed
A key goal for successful bone regeneration is to bridge a bone defect using healing procedures that are stable and dura...

コメント