私は4年前の2018年から歯科のAI開発を行っております。
今回、新たに「歯科エックス線画像を用いた歯科検診AIシステム(歯周病検診を含む)」の開発とともに2022年7月20日に特許出願*1を行いましたので、この記事ではその内容について記載しました。PRTIMESのプレスリリースはこちら。
これまでに開発してきた歯科エックス線画像AI
歯科パノラマエックス線画像は、顎と口腔領域全体の状況をスクリーニングできるエックス線写真です。
私はこれまでに歯科パノラマエックス線画像から、①各種歯科疾患(う蝕、根尖病巣、根分岐部病変、顎骨嚢胞)の診断支援AI*2と②歯式AI(歯の数と番号を自動認識するAI)の開発を行っておりました。
パノラマエックス線画像における歯科疾患の診断支援AIについては、2021年に特許取得後、AWS*3(アマゾンウェブサービス)上に構築しており、実際の使用感は下記動画のようになっております。
歯科診断支援AIの動画
歯式AIの動画
歯式AI(矯正患者)の動画
歯科エックス線画像を用いた歯科検診AIシステム(歯周病検診を含む)
①歯科疾患診断支援AI*2と②歯式AIに加え、③歯周病AI(歯槽骨ラインを自動認識するAI)の人工知能技術を組み合わせることにより、検診に代用可能な「歯科検診AIシステム」ができると考え、その開発とともにこの度特許出願*1を行いました。
この歯科検診結果は、AI歯科検診表として表示するとともに、前回データとの比較も可能になります。
「国民皆歯科検診」における運用案
本システムは、毎年の実施が検討されている「国民皆歯科検診」等において、数年に1度はパノラマエックス線画像の撮影による「AI歯科検診」を行うことで、視診による通常の歯科検診では把握できない顎骨病変や歯科疾患の早期発見が可能になると考えられます。
視診による評価では検診歯科医による差が少なからずありますが、エックス線画像を用いたAI評価を使用することで検診評価の標準化が期待され、さらに前回のパノラマエックス線画像データとの客観的な比較も可能となります。例えば、20歳から5年ごとの節目検診としての運用等が期待されます。
将来的に、撮影した歯科エックス線画像やAI歯科検診表をアプリやマイナンバーカード内にデータとして保管する運用となれば、歯科診療ともリンクでき国民の受診行動にも繋がると考えられます。
また、このエックス線画像の蓄積によるデータ分析は、国民の歯科疾患における貴重なヘルスケアデータとなり、今後の口腔衛生や歯科医療発展における礎となると考えられます。
歯科AIの将来的な方向性
薬事承認を取得した医療AI機器(プログラム医療機器)は、これまでに24機器であるが歯科領域では存在していない状況です(2023年1月時点)。
AIを開発しても医療で実装できるかどうかは、その医療AIがプログラム医療機器に関する通知(平成26年)において、「1.医療機器に該当するプログラム」に当たるか否かです。その差はAIが診断または治療のために指標になるかということで、該当する場合は薬機法に基づいた有効性や安全性の試験(臨床試験)を行い、医薬品医療機器総合機構(PMDA)への申請、許可が必要となる。臨床応用には早くても数年、費用は数億円以上が必要となります。
我々が開発しているパノラマエックス線画像から歯科疾患を検出する診断支援AIは、PMDAへの申請、許可が必要となります。医科領域では学会主導でのAI開発、AMED等の大型研究費の使用、企業との共同研究、医師会等による支援が進んでおり、その他にも医療ベンチャー企業による開発が進められ社会実装まで至っております。歯科領域でもこのような流れを模倣したスキーム作りが必要であり、そのためには多くの先生、大学、学会、企業等の支援が不可欠であると考えています。
AOI国際病院歯科口腔外科 田島聖士
(神奈川県川崎市川崎区)
*1 特許出願の情報は下記になります。
発明の名称:歯科検診AIシステム、歯周病検診AIシステム、および歯科総合検診AIシステム
出願番号:特願2022-115476
特許発明者:田島聖士、特許出願人:田島聖士・医療法人社団葵会
特許出願日:2022年7月20日
*2 歯科疾患のAI診断支援システムは2021年1月19日に特許査定を受けた技術を使用しております。
発明の名称:歯科分析システムおよび歯科分析X線システム
特許番号:特許第6830082号
特許発明者:田島聖士、特許出願人:田島聖士・医療法人社団葵会
*3 Amazon Web Services、AWSは、米国およびその他の諸国における、Amazon.com, Inc. またはその関連会社の商標です。
【参考文献】
・田島聖士, 園田央亙, 小林誉: パノラマエックス線画像における根分岐部病変を自動検出するAIモデルの開発. 日本歯周病学会誌, 2021.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/63/3/63_119/_article/-char/ja
・Satoshi Tajima, Yoshiyuki Okamoto, Takashi Kobayashi, Maiko Kiwaki, Chikanobu Sonoda, Kaori Tomie, Hiroto Saito, Yoshimi Ishikawa, Takayoshi Shintani: Development of an automatic detection model using artificial intelligence for the detection of cyst-like radiolucent lesions of the jaws on panoramic radiographs with small training datasets. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Medicine, and Pathology, 2022
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2212555822000345?dgcid=author
・プレスリリース:歯科エックス線画像を用いた歯科検診AIシステムの開発. (葵会グループ 医療法人社団 葵会 AOI国際病院)PRTIMES. 2022年7月21日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000073133.html
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