全身麻酔での親知らず抜歯について【患者様向け】

general anesthesia 患者様向け情報

横向きに埋まっている親知らず(智歯)等の抜歯に関して、大学病院や総合病院の歯科口腔外科では、全身麻酔をして完全に眠った状態で抜歯手術を行う方法もあります。患者さんの体験談としては、「起きたら抜歯手術が終わっていた」と仰っていました。
この記事では、これまでの私の臨床経験と知見を中心に分かりやすく説明します。

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全身麻酔で親知らず抜歯をする症例とは

  • 親知らずが顎の骨の中に深く埋まっている場合

親知らずは20歳前後で萌出してきますが、真っすぐに生えてくることは少なく、ほとんどが横を向いて生えてきています。

その中でも、顎の骨の中に深部埋伏している症例では、抜歯の際に骨削除を多くする必要があり、外科的侵襲が大きくなりますので全身麻酔下での抜歯となります。

また、神経と血管の道(下顎管)と親知らずが重なっていることもあり(CTでの確認が必要)、この場合も全身麻酔下での治療が必要となります。

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  • 歯科治療恐怖症の場合

歯科治療恐怖症とは、過去に受けた歯科治療で嫌な思いや怖い思いをしたこと等により、歯科治療に対して不安や恐怖心を持っている方のことです。無理に治療を続けることでパニック障害などを引き起こす可能性もあると言われています。

歯科恐怖症の方は、虫歯等になっても歯科医院への受診をためらい治療ができないため、口腔内環境の悪化がしやすい傾向にあります。
また、不安障害(不安症)の部分症状として、歯科治療恐怖症を呈する方もいます。

  • 異常絞扼反射〈いじょうこうやくはんしゃ〉を有する場合

絞扼反射とは、舌や口蓋などの刺激による嘔吐様の反射のことで、歯科用のミラー等を口の中に入れただけでも、嘔吐反射が生じることがあります。この反応が強い異常絞扼反射のある患者様では、奥歯の治療等が難しくなります。

反射の原因としては、①口腔形態によるもの、②精神疾患等の全身状態によるもの、➂治療に対する不安、恐怖心、トラウマ等の心理的によるものがあります。

  • 注意が必要な基礎疾患を有する場合

注意が必要な基礎疾患を有している方、特に高血圧や心疾患などの循環器疾患、糖尿病などの代謝内分泌疾患等を有している方は、処置中にモニタリングをして全身管理を行った状態で手術をすることをお勧めします。

また必要に応じて、入院中は循環器内科や糖尿病代謝内科の医師にも診察して頂きます。

  • 1回で複数本の親知らずを抜歯したい場合

埋まっている親知らずの抜歯は、通常の外来では1本ずつ行います。

1回で複数本の親知らずの抜歯を希望される方は、術後の痛みや出血のコントロール、および術後の食事などを考慮し、入院して全身麻酔下で処置を行います。

全身麻酔とは

麻酔科医師が、麻酔ガスや静脈麻酔薬を用いて全身麻酔をかけ、常に血圧、心拍数、心電図、血中酸素飽和度、終末呼気炭酸ガス分圧、体温等をモニタリングして、それらの変化に対応した処置がとれるように全身管理を行います。
歯科口腔外科の治療や手術では、鼻からチューブを入れて呼吸の管理を行い、口の中の手術を行います。

全身麻酔では、完全に寝ている状態で歯科治療・手術を行うため、恐怖や不安等を全く感じることはありません。また、長い時間の治療も可能になるため、一度に多くの部位の治療を行うことができ、治療回数が少なくすることもできます。

全身麻酔の治療では、当院では通常2泊3日の入院が必要になりますが、病院により入院日数が異なりますので、詳しくは各病院に問い合わせて下さい。

また、手術前の検査として、全身麻酔を受けても大丈夫かを調べるため術前検査(血液検査、心電図、胸部エックス線等の健康診断)を行います。

親知らず抜歯の方法とは

  1. 抜歯部位に局所麻酔をする。
  2. 歯肉を切開し、切開した部分の歯肉をめくる。
  3. 周囲の歯槽骨を一部削って、歯を細かく分割する。
  4. 抜歯器具を用いて歯を抜く。
  5. 抜歯した部位の不良な肉芽組織(炎症を起こしてい組織)を除去する。
  6. 抜歯した部位のお掃除して洗浄する。
  7. 必要があれば止血剤を入れて、縫合する。

親知らず抜歯後の合併症とは

抜歯後は下記のような症状が出ますので、事前に担当の先生に説明をしっかり聞いておきましょう。

・疼痛(痛み):抜歯当日と翌日がピークです。
・出血:翌日までは血がジワジワと出てきますので、抜歯当日はできるだけガーゼを咬んでいた方がいいです。
・腫脹(腫れ):抜歯した2日後がピークで、ビックリするくらい腫れますが、1週間かけて引いていきます。上顎よりも下顎の方が腫れます。
・開口障害(口が開かなくなる):腫れがひどいほど、口が開かなくなります。
・下歯槽神経の知覚異常(下唇周囲の感覚麻痺):一度症状が出ると、数カ月間は持続してしまうことが多いです。その場合、神経を回復させる薬(ビタミン剤)等を内服して頂きます。
・口角炎等

入院中のスケジュールについて(クリニカルパス)

患者さんが受ける検査、処置、食事等の標準的なスケジュールを時系列に沿って一覧にまとめた治療計画書をクリニカルパスといいます。

「2泊3日入院・全身麻酔下での歯科口腔外科手術」に関する、患者さん用の一般的なクリニカルパスを下記に掲載しましたので参考にして下さい。

費用について

2泊3日の入院、全身麻酔、親知らず抜歯(2本~4本)の費用は、保険診療の3割負担の場合、会計窓口で支払う金額は、約6~7万円になります。

全身麻酔下での治療を検討されている方は、総合病院や大学病院の歯科口腔外科を受診するようにして下さい。

入院給付金等の生命保険の利用について

外来で行う親知らず抜歯では生命保険は使用できませんが、入院して全身麻酔下での親知らず抜歯では入院給付金や手術給付金を支給されることが多いです。
その理由としては、全身麻酔下で行う親知らず抜歯は特に難しい抜歯であるため、顎の骨を削る必要があり、その場合には生命保険の適用となる可能性があります。

入院給付金に関する保障には、1泊からOKのもの、2泊からOKのもの等、様々な種類があります。入院に関する生命保険に通院保障特約をつけている場合は、退院後の通院に対しても保険金が支給されます。
入院給付金、手術給付金ともに、加入している生命保険の契約内容によって、保障内容が異なりますので、事前のご確認をお勧めします。

保険会社に確認し生命保険の対象となっている場合は、申請書類(入院・手術証明書や診断書等)を請求し、退院後に病院の総合受付へ提出する流れとなります。

本記事が少しでも参考になれば幸いです。

葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士

【参考文献】
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)

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