高血圧患者と歯科治療について【歯科医療従事者向け】

高血圧 歯科関係者向け情報

この記事では高血圧と歯科治療について、これまでの私の臨床経験と知見、ガイドラインを中心に分かりやすくまとめました。

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高血圧とは

・高血圧は、診察室血圧が140/90mmHg以上と定義されます。

・正常血圧は120/80mmHg未満ですが、降圧目標は危険因子や合併症の有無によって130/80mmHg、または140/90mmHg未満となります。

高血圧患者の歯科治療時の問題点

・高血圧患者では、動脈の柔軟性が失われ硬くなっているため、痛みや不安により血圧の変動がしやすいために注意が必要となります。

・高血圧による問題は、 ① 術中・術後の出血や止血困難と、② 高血圧緊急症などがあります。

・血圧上昇時の症状は、めまい、動悸、胸痛、発汗、耳鳴り、頭痛、嘔気、嘔吐などがあり、時に狭心症や心筋梗塞、心不全、脳出血などが発症する危険性があるため注意を要します。

歯科治療前に注意すること

・医科主治医と情報交換を行い、医学的問題(病状は落ち着いているか)の確認、内服薬(抗血小板薬や抗凝固薬)や服用状況を確認します。

・治療前に当日の降圧薬を内服してきたかを確認します。血圧測定を行い、血圧が180/110mmHg以上の場合は、身体的や精神的な問題がないかを確認します。

・血圧再検時も高血圧が持続する場合や何か問題がある場合には、緊急処置以外の待機可能な歯科処置であれば内科的治療を優先します。

歯科治療時の対処法

・歯科治療中の血圧モニタリングを行います。

・痛みがある場合は、局所麻酔を使用して除痛をします。アドレナリン(エピネフリン)を含んでいても少量であれば血圧への影響は少ないです。

・不安が強い場合は、声かけによる不安の除去、鎮静薬、抗不安薬の使用を検討します。

・収縮期血圧180/110mmHg以上の場合には治療を中断し経過観察を行います。高血圧の持続、症状がある場合には持参の降圧薬があれば服用してもらいます。

・出血時の対策として、創部の縫合、座位(頭を高くする)、止血床の作成、局所止血剤の併用、圧迫止血などがあります。

高血圧緊急症に注意

・高血圧緊急症とは、高度な高血圧(多くは180/120mmHg以上)によって、脳心血管系に急性臓器障害が生じた状態です。下表の様なこの症状を認めた場合には迅速に診断し、降圧治療を始める必要があります。ただし、臓器障害がなければ緊急降圧の対象とはなりません。

・緊急時は入院治療が原則となるため、医科主治医に連絡し、酸素投与を行い、静脈路を確保します。降圧する場合は原因にもよりますが、はじめの目標は25%未満の降圧にとどめます。治療として、経静脈的にカルシウムCa拮抗薬などの血管拡張薬の持続投与により降圧の維持を図ります。

・短時間作用型のニフェジピンカプセルなどの降圧薬は急速な降圧により、脳や心臓の虚血を引き起こす可能性があるため禁忌とされています。

今回は、高血圧に関してまとめました。
・高血圧の患者は動脈硬化もあるため、血圧が急激に上昇する場合があります。
・高血圧時は出血しやすく、特に血圧180/110mmHg以上の場合は、高血圧緊急症の可能性も考え経過を見ましょう。
・また、血圧上昇を抑えるために、局所麻酔による除痛や、声掛けや鎮静による不安の除去も検討しましょう。

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

【参考文献】
・高血圧治療ガイドライン2019 (日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン作成委員会編、ライフサイエンス出版)
・最新口腔外科学第5版(榎本昭二他、医歯薬出版株式会社)

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