全身麻酔手術時に内服中止する薬について【歯科医療従事者向け】

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この記事では、全身麻酔下で行う歯科口腔外科手術前に内服を中止しなければいけいない薬について、これまでの臨床経験と知見からまとめてみました。

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全身麻酔手術と外来手術の違い

全身麻酔下で行う手術(口腔外科だけではなく整形外科・脳神経外科・心臓血管外科等の全ての外科)の際は、出血のリスク・血栓症のリスク観点等から手術前に中止しなければいけない薬が多く、約250種類の薬が該当します。

本記事では、その全種類を作用機序別に、薬の商品名・一般名・推奨休薬期間・中止の理由について表にまとめましたので、臨床の参考にして頂ければと思います。

外来で行う抜歯やインプラント等の外科処置については、休薬する薬は基本的にありません。誤解のないようにお願いします。

参考として、血液をサラサラにする薬(抗血栓薬:抗血小板薬または抗凝固薬)を内服している患者さんに対する外来での抜歯(歯科口腔外科の外科処置)については、下記の記事をご覧ください。

抗血栓薬①(抗血小板薬)

抗血栓薬②(抗凝固薬)

脂質異常症治療薬

血管拡張薬

勃起不全改善薬

排尿障害治療薬

脳循環・代謝賦活薬

抗アレルギー薬

抗認知症薬

経口糖尿病治療薬

抗精神病薬

狭心症薬

心不全治療薬

降圧薬

気管支拡張薬

女性ホルモン製剤

骨粗鬆症治療薬(SERM)

抗リウマチ薬

抗悪性腫瘍薬

健康食品・サプリメント

喫煙

注意事項①:術中の低血糖リスクについて

手術中は主に麻酔科医が血圧、心電図、SpO2等をモニタリングして、呼吸状態と循環動態を監視しています。

しかし血糖値はその都度の採血が必要であるため、血糖値の異常には気がつきにくいのが一般的です。低血糖状態は、脳へのエネルギー供給が少ない状態(脳への大きな障害)のため、早急な対応と予防が必要になります。

全身麻酔での手術前は絶食のため、経口血糖降下薬を手術当日に内服すると、手術中に血糖値が予想以上に下がることが考えられます。そのため、手術前の経口血糖降下薬の休薬が必要になります。

注意事項②:出血のリスクがある薬

出血のリスクがある薬は抗凝固薬、抗血小板薬、血管拡張薬、冠血管拡張薬、脳循環・代謝改善薬などです。

抗凝固薬や抗血小板薬は、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などの患者さんに対して使用し、血液が固まるのを防ぎ、細い血管の目詰まりを予防します。

気管内挿管(経鼻挿管・経口挿管)や手術の内容によっては、出血を増やすことになり、術中や術後出血の可能性があるため休薬が必要になります。

通常、執刀医が循環器科などのかかりつけ医に、病状確認と薬についての打診をして、休薬の決定をします。

注意事項③:血栓症のリスクがある薬

血栓症のリスクがある薬は黄体・卵胞ホルモン剤(経口避妊剤)、骨粗鬆症治療薬(SERM)です。

低用量経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)である月経困難症治療剤に含まれるエストロゲンは、血液凝固機能を亢進させる作用を持っています。

日本産科婦人科学会のOC・LPEガイドライン2015年度版)では、30分を超える手術や術後に不動を伴う手術では静脈血栓塞栓症リスクが上昇するため、少なくとも手術の4週間前から中止する必要があるとされています。

薬剤によって添付文書に記載されている休薬期間が異なりますので確認が必要となります。

注意事項④:創傷治癒遅延・出血リスクの可能性がある抗がん剤

創傷治癒遅延・出血リスクの可能性がある抗がん剤及び類薬は抗悪性腫瘍剤などのVEGF関連薬です。

これらの薬は副作用として傷の治りが遅くなることや術後出血のリスクが挙げられていますので、注意が必要です。

注意事項⑤:健康食品・サプリメント

健康食品やサプリメントにも抗血小板凝集作用や抗血栓作用を含んでいるものや、麻酔薬の作用を増強させてしまうもの等が存在するため、手術に悪影響を与えないように休薬する必要があります。

健康食品やサプリメントを含めた内服しているものの全ての確認が必要です。

注意事項⑥:喫煙

喫煙により手術後の感染率増加、創傷治癒の遅延、痰の増加や肺炎等の呼吸器合併症の可能性が考えられるため、全身麻酔手術が決まったら禁煙が必要になります。IQOS(アイコス)等の電子タバコも同様です。

手術前のいつの時点からでも禁煙を開始することは意義がありますが、予定手術では下記資料のとおり4週間以上前からの禁煙が望まれます。可能な限り長期の術前禁煙は、周術期合併症をより減少させます。

注意事項⑦:術後出血の考慮

全身麻酔下手術においても、術前に抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)を中止しない場合もあります。

全身状態、術後合併症のリスク、手術内容による出血リスクの程度、術後出血リスクの程度、気管内挿管の種類(経鼻挿管は鼻粘膜を損傷しやすいため経口挿管より出血リスク高い)等を考慮して、主治医(外科医)と麻酔科医により、抗血栓薬を内服中止せずに手術を行うこともあります。

麻酔科医の立場としては、術後出血時に創部を再度開けずに外から止血ができるか、できないか(再手術になるか)が大きな目安となっています。

今回は全身麻酔下手術の術前に内服中止する薬についてまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。

【参考文献】
・循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン・心房細動治療ガイドライン 日本循環器学会 2015年
・不整脈薬物治療ガイドライン(日本循環器学会/日本心不全合同ガイドライン)  2020年改訂版
・DOAC休薬 JCSガイドラインフォーカスアップデート 2021
・手術医療の実践ガイドライン 日本手術医学 2020
・非心臓手術における合併症疾患の評価と管理に関するガイドライン 2022
・高血圧治療ガイドライン 2019
・SGLT2の適正使用に関するRecommendation 日本糖尿病学会 2020
・メトホルミン適正使用に関するRecommendation 日本糖尿病学会 2020
・米国ACC/AHAガイドライン 2017
・欧州ESC/ESHガイドライン 2018
・日本産婦人科学会OCガイドライン 2015
・周術期の薬学管理(日本薬剤師会)
・関節リウマチ診療ガイドライン 2020
・周術期禁煙ガイドライン 日本麻酔科学 2015

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