人工知能と歯科④【歯科エックスAIによる診断支援と歯科健診】

歯科エックス線AI 気になる歯科情報

私は2017年から葵会グループのAOI国際病院で「歯科口腔外科領域におけるエックス線画像のAI開発」を行っております。開発している歯科医療AIは、臨床での「不」(不便益、不効率、不正確)を解決するために行っております。歯科エックス線AIは、「AIによるダブルチェック」という観点で使用することにより、「医療の標準化」が期待でき、医療従事者及び患者様に有益なものと考えられます。

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我々が開発している歯科エックス線画像AIとは

歯科口腔外科領域におけるAI開発はまだこれからの分野であり、現時点で幾つかの大学や企業が各々で開発している状況です。

我々は当院倫理委員会の承認後、個人情報保護委員会の規定に沿って、データの管理を行い、大量の学習用データ作成から開始しました。今回の場合はパノラマエックス線データの読影、アノテーション作業を行い、教師用データを用意しました。

初めの1万枚のアノテーション付けには約330時間かかり、3万枚のアノテーション作業には約1,000時間を要しました。

深層学習アルゴリズムを用いた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の転移学習により、パノラマエックス線画像におけるう蝕、根尖病巣、根分岐部病変、顎骨嚢胞様透過像を自動検出するAIを開発しました。

成果は各種学会(日本口腔外科学会、日本歯周病学会、日本放射線学会、日本口腔インプラント学会、日本メディカルAI学会)での発表と論文にて報告しております。下記文献をご覧いただければ幸いです。

1.歯科疾患の画像認識AI(パノラマX線)
・対象疾患は4つ(う蝕、根尖病巣、根分岐部病変、顎骨嚢胞)
・アノテーションデータは約3万枚
・根分岐部病変AIの論文(パノラマエックス線画像における根分岐部病変を自動検出するAIモデルの開発. 日本歯周病学会誌, 2021)
・顎骨嚢胞AIの論文(Development of an automatic detection model using artificial intelligence for the detection of cyst-like radiolucent lesions of the jaws on panoramic radiographs with small training datasets. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Medicine, and Pathology, 2022)

・AWS(アマゾンウェブサービス)上に構築
・特許取得

2.歯式の画像認識AI(パノラマX線)
・アノテーションデータは約3万枚

3. インプラント種類の鑑別AI(デンタルX線)
・アノテーションデータは約100万枚(複製も含む)

AWS上での構築とAWSカオスマップ

パノラマX線画像を用いた歯科疾患の診断支援AIは、AWS(アマゾンウェブサービス)上で使用できるように構築されています。

我々がこれまでに開発した歯科パノラマエックス線画像から、①各種歯科疾患(う蝕、根尖病巣、根分岐部病変、顎骨嚢胞)の診断支援AIと②歯式AI(歯の数と番号を自動認識するAI)の実際の使用感は下記動画のとおりです。

歯科診断支援AIの動画

歯式AIの動画

AWSカオスマップ
アマゾンウェブサービスを用いたサービスを行っている利用例として、下記のようにAWS様からご紹介頂いております。

歯科エックス線画像を用いた歯科健診AIシステム(歯周病健診を含む)

①歯科疾患診断支援AIと②歯式AIに加え、③歯周病AI(歯槽骨ラインを自動認識するAI)の人工知能技術を組み合わせることにより、健診に代用可能な「歯科健診AIシステム」ができると考え、その開発を行いました(新たに特許出願中)。
この歯科健診結果は、AI歯科健診表として表示するとともに、前回データとの比較も可能になります。

パノラマエックス線画像を用いた歯科健診システム

2025年4月から当院健康管理センターにて、「パノラマエックス線画像による歯科検査」を開始予定です。臨床研究ベースでの開始を予定としており、本歯科健診システムには歯式AIのみ使用し、歯科疾患の読影および診断は歯科医師が行います。

通常の医科の健康診断の1つとしてパノラマエックス線画像を撮影
→歯式AIと歯科医師により評価
→結果を健診結果表でフィードバック
→歯科疾患を早期発見から歯科受診に繋げる
→口腔の健康増進
→全身の健康増進
→健康寿命の延伸
→医療費の削減
→国民皆保険制度の維持

体の健康診断と一緒に行うことにより、今後は体の健診結果(血液データ、心電図、胸部エックス線、身長、体重、BMI等)の所見との調査研究も可能になると考えられます。

「国民皆歯科健診」における運用案

本システムは、毎年の実施が検討されている「国民皆歯科健診」等において、数年に1度はパノラマエックス線画像の撮影による「歯科健診」を行うことで、視診による通常の歯科健診では把握できない顎骨病変や歯科疾患の早期発見が可能になると考えられます。

視診による評価では健診歯科医による差が少なからずありますが、エックス線画像を用いた客観的な評価を使用することで健診評価の標準化が期待され、さらに前回のパノラマエックス線画像データとの比較も可能となります。

将来的に、撮影した歯科エックス線画像や歯科健診表をPHR(Personal Health Record)として、マイナ保険証等にデータとして保管する運用となれば、歯科受診・歯科診療ともリンクでき国民の受診行動にも繋がると考えられます。

また、このエックス線画像の蓄積によるデータ分析は、国民の歯科疾患における貴重なヘルスケアデータとなり、今後の口腔衛生や歯科医療発展における礎となると考えられます。

葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科 部長
医療創生大学 歯科衛生専門学校 校長

田島聖士

【参考資料】

[歯科疾患AI診断支援システムの特許について:特許取得]
特許の名称:歯科分析システムおよび歯科分析X線システム
特許出願日:2018年6月4日、特許取得日:2021年1月27日
出願番号:特願2018-107011、特許番号:特許第6830082号
特許発明者:田島聖士
特許出願人:田島聖士、医療法人社団葵会

[歯科健診AIシステムの特許について:特許出願中]
発明の名称:歯科検診AIシステム、歯周病検診AIシステム、および歯科総合検診AIシステム
出願番号:特願2022-115476
特許発明者:田島聖士、特許出願人:田島聖士・医療法人社団葵会
特許出願日:2022年7月20日

[論文:根分岐部病変AI]
・田島聖士, 園田央亙, 小林誉: パノラマエックス線画像における根分岐部病変を自動検出するAIモデルの開発. 日本歯周病学会誌, 2021.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/perio/63/3/63_119/_article/-char/ja

[論文:顎骨嚢胞AI]
・Satoshi Tajima, Yoshiyuki Okamoto, Takashi Kobayashi, Maiko Kiwaki, Chikanobu Sonoda, Kaori Tomie, Hiroto Saito, Yoshimi Ishikawa, Takayoshi Shintani: Development of an automatic detection model using artificial intelligence for the detection of cyst-like radiolucent lesions of the jaws on panoramic radiographs with small training datasets. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery, Medicine, and Pathology, 2022
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2212555822000345?dgcid=author

[プレスリリース]
歯科エックス線画像を用いた歯科検診AIシステムの開発. (葵会グループ 医療法人社団 葵会 AOI国際病院)PRTIMES. 2022年7月21日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000073133.html

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