骨粗しょう症の患者さんが歯科治療時に注意することは?【患者様向け】

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この記事では骨粗しょう症と歯科について、これまでの臨床経験と知見、ガイドラインを中心に患者様向けに詳しくまとめました。

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骨粗しょう症とは

骨粗しょう症は、骨の量や強度が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。
骨は、新たに作られること(骨形成)と溶けて壊されること(骨吸収)を常に行っていますが、骨粗しょう症はこのバランスが崩れることで起こり骨がスカスカになってしまいます。

骨粗しょう症は圧倒的に女性、特に閉経後の女性に多くみられ、女性ホルモン(エストロゲン)の減少や加齢と関わりが深いと考えられています。その他には食事や運動不足などが考えられます。
日本には約1000万人以上の患者さんがいるといわれており、高齢化に伴ってその数は増加傾向にあります。

治療としては内服薬や注射などによるものがあります。詳しくは整形外科を受診してお聞き下さい。

骨粗しょう症薬と顎の骨の病気(顎骨壊死)について

・骨の吸収を抑える薬(骨吸収抑制薬:骨粗しょう症薬の中のビスホスホネートまたはデノスマブ)を使用することにより、抜歯した後の骨の治りが悪くなり、顎骨が腐ってしまう(壊死する)ことがあります。

・このことを薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)、ビスホスホネート製剤関連顎骨壊死(BRONJ)などと呼ばれています。

骨粗しょう症薬について

骨粗しょう症の薬には、①顎骨壊死と関係ない薬剤、②顎骨壊死と関係ある薬剤(骨吸収抑制薬:ビスホスホネート、デノスマブ)があります。

①顎骨壊死と関係ない薬剤
・ビタミンD製剤、エストロゲン製剤、テリパラチド(商品名:テリボン・フォルテオ)
これらの薬剤は服用しても顎骨壊死は起こりません。

②顎骨壊死と関係ある薬剤(骨吸収抑制薬)
(1)ビスホスホネート(BP)
ビスホスホネートは破骨細胞の活動を阻害し、骨吸収を抑える薬剤で、骨粗しょう症などの骨脆弱性を呈する疾患の治療に用いられます。

(2)デノスマブ(プラリア・ランマーク)
デノスマブは破骨細胞へのシグナル伝達を抑制し、骨の吸収を抑えます。

骨粗しょう症の患者さんが歯科受診時に注意すること

・歯科受診時に、飲んでいる骨粗しょう症の薬を全て伝えましょう。
・かかりつけの医科の病院名と先生の名前を伝えましょう。
・その他にも飲んでいる薬や治療している病気があれば全て伝えましょう。

体の状態とお口の状況によっては、

・歯科医師が、かかりつけ医科の先生にお手紙を書き、病状や薬のことを確認することがあります。医科と歯科が連携して治療を進めていきます。
・全身管理や手術の設備が整った総合病院や大学病院の口腔外科での歯科治療が必要な場合があります。
・さらに入院が必要となる場合もあります。

顎骨壊死(顎の骨の病気)の症状

典型的な症状は、歯肉の痛み、腫脹、感染、膿、歯の動揺などがあります。
詳しい分類は下記のとおりです。

顎骨壊死の発生頻度

・日本国内での発生頻度は不明です。
・2004-2005年頃のオーストラリアでの調査結果では①抜歯施行例では頻度が高くなっていました、②骨粗しょう症の抜歯時は0.09~0.34%でした。
・4年以上の服用で顎骨壊死のリスクが上昇するという報告もあります。
・米国歯科医師会は最大でも0.1%の発生率であり休薬の効果も不明であることから、骨吸収抑制薬による骨折予防のベネフィットの方が上回るとの見解を示しています。

骨吸収抑制薬服用時の抜歯や歯科手術について(顎骨壊死の予防)

①ポイント
・原則的には歯科治療の前にビスホスホネートを休薬する必要はないとされています。
・休薬することで生じる骨折リスクの上昇の方が、顎骨壊死の予防効果というベネフィットを上回るということです。
・顎骨壊死は感染が引き金となって発症、増悪します。
・そのため、感染予防のために術前後の抗菌薬投与、口腔衛生管理を徹底することが重要になります。

②骨吸収抑制薬の使用開始時
・医科主治医と歯科主治医の両方への共有が必要になります。
・ビスホスホネートやデノスマブ等の投与開始前までに抜歯や歯科手術を終了します。
・目安としては抜歯部位の粘膜形成が完了する2週間後か、骨が十分に治癒するまでです。
・ただし、早急に治療介入が必要な場合には、平行して治療を行っていきます。

③骨吸収抑制薬服用中の抜歯や歯科手術
・原則的にはビスホスホネートの休薬は必要ないとされています。
・できるだけ保存的に、やむを得ない場合は侵襲的歯科治療を進めます。
・注射用ビスホスホネート治療中に侵襲的歯科処置が必要な場合は、創部が治癒するまでは使用の延期を検討します。
・骨粗鬆症患者に対するデノスマブ(血中半減期:約1カ月)の投与は6カ月ごとのため、血中半減期を考慮して、歯科治療の時期や内容を検討します。

④休薬を考慮する場合
・ステロイドを併用、または経口ビスホスホネート投与が3年以上等のリスク因子を持つ場合で、歯科処置に時間的猶予がある場合は休薬を考慮します。
・休薬期間は歯科処置前の3ヵ月間は経口ビスホスホネートの投与を中止します。
・再開時期は十分な骨性治癒が見られる2カ月前後が望ましいです。
・主疾患の病状により早期の再開を要する場合には、創部の上皮化が終了する2週間を待ち、感染がないことを確認したうえで投与を再開します。

顎骨壊死になった際の対応

・顎骨壊死の口腔外科治療が完了するまでの間は、ビスホスホネートあるいはデノスマブの休薬が望ましいです。
・発症したとしても生命予後に影響することは少なく、癌や骨粗しょう症などの原疾患の治療が優先される場合が多いです。

具体的な顎骨壊死に対する歯科治療内容

・歯、歯周病の積極的な治療 
・抗菌性洗口剤による口腔衛生状態の改善
・抗菌薬の投与
・腐骨の除去
・症状がない軽度な顎骨壊死には、保存的療法が推奨されています。
・症状がある重度な顎骨壊死には、外科的療法が推奨されています。
詳しくは担当の歯科医師に確認してみてください。

今回は「骨粗しょう症の患者さんが歯科治療時に注意することは?」という疑問についてまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。

葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士

【参考文献】
・ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死(日本口腔外科学会監修)
・骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016(顎骨壊死検討委員会編)
・全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト第二版(国立がん研究センター編)
・最新口腔外科学第5版(榎本昭二他、医歯薬出版株式会社)
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)

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