授乳していても歯科の麻酔・薬・治療は大丈夫?【患者様向け】

患者様向け情報

この記事では授乳と歯科治療について、これまでの臨床経験と知見、ガイドラインを中心に患者様向けに詳しくまとめました。

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授乳中の内服について

結論としては、母親が薬剤を内服後に母乳へと移行する薬剤はかなり少なく、さらに赤ちゃんが母乳から吸収する量は減るため、影響が出る可能性はとても低いです。

例として、母親がアモキシシリン(250mg/回)を服用し、赤ちゃん(5kg)が哺乳を750ml/日とした場合、赤ちゃんの理論的薬剤摂取量は0.118mgとなります。ちなみに、赤ちゃん(5kg)に対するアモキシシリンの治療量は100mg/日です。

つまり、母乳を介して赤ちゃんに与えられる薬剤量は極めて少量で、実際には赤ちゃんに影響がないと考えられます。

【参考】
相対的乳児薬剤摂取量とは、母体投与量の何%が赤ちゃんに移行したかを示すものです。

相対的乳児薬剤摂取量(RID)
=乳児薬物摂取量(mg/kg/day)/母親の薬物摂取量(mg/kg/day)×100
このRIDが10%以下であれば安全で、1%以下では問題となりません。

日本の医薬品の添付文書には、母乳中へ薬剤が移行する場合に「服用中は授乳を回避・中止させること」と記載されていることが多いと思われます。

その様な現状の中で治療の必要な母親が不必要に授乳を中断してしまう事のないように、「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」を、医学的根拠に基づき公表してくれている組織があります。

・成育医療センターなどのHPでは、授乳中でも問題ないと記載されています。
・授乳を済ませてから治療や内服をすることで、次の授乳までに間をあければより影響は少ないとされています。
・薬は飲んだ後、徐々に血液や母乳に移行していきます。一般的に母乳中の薬の濃度が最高になるのは服用した 2~3 時間後です。そのため、薬の服用直前あるいは直後に授乳することで、赤ちゃんへの影響を少なくできます。
・それでも心配な方は、事前に搾乳したものや人工乳を与える方法があります。

薬について

妊娠中の投薬はかなり制限がありますが、授乳中に使用できる薬剤は妊娠中と比べると比較的多くあります。母乳中に分泌される薬剤の量は多くの因子が影響します。

★薬剤が母乳に移行しやすい因子 

・解熱鎮痛薬 
アセトアミノフェン:安全性が高いとされています。
NSAIDs(ロキソニンやボルタレン等):血漿蛋白結合率が高く、移行率は低いです。

・抗菌薬
ペニシリン系、セフェム系:母乳への移行は少量で影響は少ないとされています。
マクロライド系:脂溶性高く半減期も長いですが、現時点で問題ないです。
ニューキノロン系・テトラサイクリン系:小児では投与は避けますが、母親が必要な場合は2週間程度では許容されます。

・歯科での注射薬(局所麻酔薬)
一般的な使用法の局所麻酔であれば問題ありません。

授乳中でも使用可能な薬剤一覧

今回は「授乳していても歯科の麻酔・薬・治療は大丈夫?」という疑問についてまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。

葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士

【参考文献】
・妊娠と薬情報センター(国立成育医療研究センターHP、https://www.ncchd.go.jp/kusuri/)
・産婦人科診療ガイドライン2017 (日本産科婦人科学会・日本産婦人科学会編、Obstetrical-practice.pdf (jcqhc.or.jp)
・母乳とくすりハンドブック2010(大分県『母乳と薬剤』研究会編)
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)

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