人工知能と歯科①【歯科AIの開発について】

人工知能 気になる歯科情報

2018年からAOI国際病院で「歯科口腔外科領域におけるエックス線画像のAI開発」を行っています。
医療AIは、AIによるダブルチェックという観点で使用することにより、医療の標準化が期待でき医療従事者及び患者に有益なものと考えられます。

また、開発しているエックス線画像AIでは、適正に撮影されたパノラマエックス線画像を用いるため、 正しいエックス線撮影方法の啓蒙にも繋がると考えられます。

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はじめに

近年、医療現場でもAIやIoTを用いた治療の新しい技術が開発され医療のパラダイムシフトが起きています。

開発しているAIは、全て臨床での「不」(不便益、不効率、不正確)から発想が生まれたものです。

我々は、はじめにパノラマエックス線画像での各病変(う蝕、根尖病巣、根分岐部病変、顎骨嚢胞様透過像)を自動検出するAIの開発から始め、現在はパノラマエックス線から歯式を自動検出するAIとデンタルエックス線写真からインプラントの機種を自動検出するAIの開発にも取り組んでいます。

歯科におけるAI開発について

歯科口腔外科領域におけるAI開発はまだまだこれからの分野であり、現在は幾つかの大学や企業が各々で開発している状況です。その内容は、歯科用CADにAIを用いたプログラムの開発(デンタルサポート株式会社や三井化学株式会社と株式会社9DW)、スマホの写真を用いて歯周病リスクを予測するAI開発(東北大学とドコモ株式会社)、これまでの診療データを用いて、診断・治療を支援するAIシステムの開発(東京医科歯科大学と三井物産株式会社)、スマホ、AIで歯周病のチェックをするAI開発(福岡歯科大学と熊本市ベンチャー企業)等が進められています。
学会発表では我々の他に、口腔がん早期発見システムのAI開発、矯正歯科治療における人工知能システムの開発等の発表がなされています。

我々の歯科口腔外科領域におけるエックス線画像AIについて

私は当院倫理委員会の承認後、個人情報保護委員会の規定に沿って、データの管理を行い、大量の学習用データ作成から開始しました。今回の場合はパノラマエックス線データの読影、アノテーション作業を行い、教師用データを用意しました。

初めの1万枚のアノテーション付けには約330時間かかり、3万枚のアノテーション作業には約1,000時間を要しました。

AIエンジニアにプログラミングをしていただき、パノラマエックス線の診断支援AIのディープラーニングを行いました。
その後はAI開発用のPCを購入し、アノテーション作業とディープラーニング作業を一人で何度も繰り返し、精度の高いAIの構築を行いました。

私がはじめに1人でアノテーションデータの作成を行っていた理由は、読影する人が多くなるほど読影の基準が変わり、一定の基準でのアノテーション付けができないこと、それによってAI学習に混乱してしまうことを防ぐためである。AIの作成およびその精度には、アノテーションの精度が最も重要と考えられています。

深層学習アルゴリズムを用いた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の転移学習により、パノラマエックス線画像におけるう蝕、根尖病巣、根分岐部病変、顎骨嚢胞様透過像を自動検出するAIを作成しました。

評価用データセットを用意して、正答率、感度、特異度、適合率、再現率、F値を評価している。その結果については、2019~2020年に学会発表(日本口腔外科学会、日本歯周病学会、日本放射線学会、日本口腔インプラント学会、日本メディカルAI学会)し、2021年に論文投稿(日本口腔外科学会、日本歯周病学会)を行っています。

特許について

特許出願日:2018年6月4日
特許取得日:2021年1月27日
特許の名称:歯科分析システムおよび歯科分析X線システム
出願番号:特願2018-107011
特許発明者:田島聖士
特許出願人:田島聖士、医療法人社団葵会

医療AIの実装について

AIを開発しても医療で実装できるかどうかは、その医療AIがプログラム医療機器に関する通知(平成26年)において、「1.医療機器に該当するプログラム」に当たるか否かで、その差はAIが診断または治療のために指標になるかということです。

該当する場合は、薬機法に基づいた資料作成、事前面談、対面助言、有効性や安全性の試験(臨床試験)を行い、医薬品医療機器総合機構(PMDA)への申請、許可が必要になり、実装までのハードルが一気に上がり、早くても数年が必要となります。
また、該当しない場合は、第三者認証の許可または規制なしということになります。

この「1.医療機器に該当するプログラム」に当たるか否かの判断はPMDAではなく、各都道府県の厚生局薬務課に問い合わせが必要でありますが、各都道府県での判断が出来かねる場合は厚労省への確認となります。

実際に私の場合も、神奈川県薬務課では判断できずに厚労省に判断していただきました。結果はパノラマエックス線での病変認識AIは「1.医療機器に該当するプログラム」に該当する、歯式認識AIとインプラント種類の鑑別AIは該当しないということでした。

パノラマエックス線画像からう蝕、根尖病巣、根分岐部病変、顎骨嚢胞様透過像をスクリーニングする病変認識のシステムは、学習用の教師データを増やして精度を高めるとともに、PMDAを通じて医療機器の薬事承認を経ることを目標としています。一方、インプラントの種類の鑑別や歯式の認識は傷病の診断に当たらないと判断されるため、医療機器の薬事承認なしに実用化を目指しています。

歯科AIにおける今後の課題と展望

歯科AIでは今後、CT画像におけるAI、治療指針や治療計画を提案するAI、治療後の予後や予測をするAIについての開発が期待されます。また、歯科においてのAI開発の促進するためには、大学や企業だけでなく、学会による開発支援や大規模共同研究も必要と考えられます。

歯科AIが社会実装するには課題があると考えられます。その多くが歯科に限ったことではなく、医療AIの開発全体に通じることですが、倫理的・法的・社会的課題に対する法律やガイドラインの整備、AIのブラックボックス性に対する厚労省やPMDAの対応、AIの誤診に対する医師・歯科医師の対応、薬機法の承認プロセス(資料作成、事前面談、対面助言、有効性や安全性の試験、PMDAへの申請・許可)等です。

これらの問題に対しては、AIを利用する医療従事者側への教育が必須であり、また学会等による積極的な整備・提言が期待されます。
医療従事者、歯科医療従事者が上手にメディカルAIを使いこなすためにも、医療AIの正しい理解と研鑽も不可欠と考えられます。

最後に

現在第三次AIブームと言われていますが、今回のAIブームでは既に社会実装が始まっており、このままAIが社会に取り入れられて普及が進むことが予想されます。

医療AIにおいても、画像認識(単純エックス線画像、CT画像、内視鏡画像、超音波画像、眼底写真、病理画像)、問診や診察の会話、聴診音、ベッド離床の検知、オミックス解析(ゲノム解析や遺伝子解析)、新薬開発等においての開発とその利用が期待されています。

我々が取り組んでいるエックス線の画像認識はディープラーニングの最も得意とする分野であり、今後さらに大きな期待が出来ると考えられています。

我々の取り組みも日本における歯科AIの開発とその社会実装に少しでも貢献できるよう、スピード感をもってAI開発を継続していきたいと考えています。

この記事が少しでも参考になれば幸いです。

【参考文献】
・田島聖士, 園田央亙, 小林誉: パノラマエックス線画像における根分岐部病変を自動検出するAIモデルの開発. 日本歯周病学会誌, 63: 2021.
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/perio/63/3/_contents/-char/ja

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