口臭は多くの方が一度は気にされたことがある身近な問題です。
診療をしていても「自分の口臭が気になる」「家族に指摘された」といったご相談をよく受けます。口臭にはいくつかの原因があり、その多くは正しい知識と対応で改善できるものです。
この記事では、これまでの臨床経験を踏まえて、口臭の種類や原因、そして予防・治療について分かりやすくまとめました。
口臭の種類

口臭には大きく分けて3つの種類があります。
・生理的による口臭
誰にでも起こる自然な口臭です。
- 起床時:睡眠中は唾液の分泌が減り、細菌が増えるため口臭が強くなります。
- 空腹時や緊張時:同様に唾液の分泌が減少し、一時的に臭いが出やすくなります。
- ホルモン変化:妊娠や更年期など、体内のホルモンバランスが変化する時期にも口臭が起こることがあります。
これらは一時的なもので、基本的に治療の必要はありません。朝起きた後の歯磨きや水分補給、食後のブラッシングで十分に改善できます。
・食べ物等よる口臭
ニンニクやネギなどの香りの強い食品、アルコールやタバコによる口臭もよく知られています。これらは体内で代謝された後、肺から息として排出されるため数時間は残ることがあります。
しかし、これも時間の経過とともに薄れていく一過性のものです。歯磨きやうがいに加えて、水分を多めに取ることでも軽減できます。過剰に心配する必要はありません。

・病気による口臭
注意が必要なのは病気が原因で起こる口臭です。糖尿病や胃腸疾患、鼻や喉の病気でも臭いが出ることがありますが、実際の臨床現場で最も多いのはお口の中に原因があるケースです。
主な原因には以下があります。
- 歯周病:歯ぐきの炎症や歯周ポケット内の細菌増殖
- 虫歯:歯の中で細菌が繁殖する
- 歯垢(プラーク):磨き残しに細菌が繁殖する
- 舌苔(ぜったい):舌の表面に付着する白い苔状の汚れ
病気による口臭の場合、自己流のケアでは改善が難しいことも多いため、まずは歯科医院で原因を確認することを強くお勧めします。
口臭と歯周病の関係
口臭の原因の中でも特に多いのが歯周病です。
歯周病が進行すると歯と歯ぐきの間に「歯周ポケット」という溝ができ、そこに細菌が繁殖します。歯周病菌の中にはP. gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)と呼ばれる細菌があり、強烈な臭いを放つガスを作り出します。これが硫化水素やメチルメルカプタンといったガスで、腐敗臭のような独特の臭いを持ち、周囲の人も不快に感じるレベルの強い口臭になります。
また、舌の表面に付着する舌苔もガスの発生源です。歯磨きと併せて舌のケアをすることが望ましいですが、強くこすりすぎると粘膜を傷つけるため注意が必要です。

歯周病と口臭を防ぐ方法
正しいセルフケア
・毎日の歯磨き(歯ブラシ)に加え、歯間ブラシやデンタルフロスを使うことが大切です。歯と歯の間や歯周ポケットには歯ブラシだけでは届きません。
・舌ブラシを使った舌清掃も効果的です。
定期的な歯科受診
・日本人成人の約8割が歯周病にかかっているといわれています。自覚症状がなくても進行するのが歯周病の怖い点です。半年に1回程度の歯科健診で早期にチェックし、歯石除去やクリーニングを行うことで予防効果が高まります。
生活習慣の改善
・十分な睡眠とストレスケア
・水分補給で口腔内を乾燥させない
・バランスの取れた食生活
これらを意識するだけでも口臭の予防につながります。
口臭が気になるときの対処法
・一時的な臭いであれば、歯磨きやうがい、口臭予防のガムなどで十分対応可能です。
・慢性的な口臭を感じる場合は、自己判断せずに歯科医院を受診してください。歯周病や虫歯が進行している可能性があり、早めの治療が必要です。
・全身疾患が疑われる場合には、内科などの医科での検査も必要になることがあります。
最後に
・口臭には誰にでも起こる生理的なものから、食べ物・嗜好品による一過性のもの、そして病気が原因となるものまで様々な種類があります。その中でも最も多いのは歯周病による口臭であり、歯科での治療と日々のケアで改善できることがほとんどです。
・「口臭があるかも」と不安を抱えること自体が強いストレスになります。気になる方は、まずはかかりつけの歯科医院で相談し、原因を明らかにすることが第一歩です。
今回は口臭についてまとめてみました。
この記事が皆様の健康な生活に少しでも役立てば幸いです。
【参考文献】
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)
コメント