最近、「オーラルたばこ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
煙が出ない、ニオイが少ない、場所を選ばず使いやすいといった点から、紙巻きたばことは違う新しい選択肢として見られているようです。

しかし、歯科口腔外科の立場からすると、これは「口の中で使うたばこ」であり、口腔粘膜や歯肉などの口腔がんとの関係を慎重に考える必要があります。
今回は、オーラルたばことは何か、そしてお口の健康の面からどのように考えるべきかを整理します。
「オーラルたばこ」とは何か
オーラルたばこは、一般的には「無煙たばこ」の一種として理解されます。
紙巻きたばこのように火をつけて煙を吸うのではなく、パウチ状の製品を上唇の裏や歯肉の近くに置き、口腔粘膜からニコチンなどを吸収するタイプの製品です(最長約30分使用)。
厚生労働省も、噛みたばこ・嗅ぎたばこについて、煙が出ない無煙たばこの一種であり、口腔内で頬の内側と歯肉の間に入れて使用するものがあると説明しています。
つまり、煙が出ないからといって「たばこではない」わけではありません。口の中の粘膜に直接接触させて使うたばこで、れっきとしたタバコ関連製品として考える必要があります。
「煙が出ない」ことと「安全」は同じではない
オーラルたばこの大きな特徴として、「煙もニオイもない」という点が強調されることがあります。確かに、周囲に煙が広がらないことや、ニオイが少ないことは、紙巻きたばこと比べたときの違いです。
しかし、歯科医師として強調したいのは、「煙が出ない」ことと「健康へのリスクがない」ことは同じではないという点です。
VELO公式サイトにも、本製品は健康へのリスクがないものではなく、依存性のあるニコチンを含むこと、また「煙もニオイもない」「有害性物質99%オフ」などの表現は、健康への悪影響が他製品より小さいことを意味するものではないと記載されています。
この点は非常に重要です。たばこ製品は、見た目や使い方が変わると、リスクも小さく見えやすくなります。しかし、リスクの場所が「肺」から「口」に移っている可能性も考えなければなりません。
口の中に直接置くことの意味
歯科口腔外科の立場から見ると、オーラルたばこで特に気になるのは、口腔粘膜や歯肉に長時間接触する点です。
口の中の粘膜は、体の表面の皮膚とは異なり、薄く、刺激を受けやすい組織です。そこにニコチンを含むたばこ製品を繰り返し接触させることは、単なる嗜好品の問題だけではなく、粘膜疾患、歯肉への影響、白斑、慢性的な刺激などの問題につながる可能性があります。
CDCは、無煙たばこについて、ニコチン依存を引き起こすこと、口・食道・膵臓のがんの原因となること、さらに白板症や口腔・咽頭・喉頭のがんなど、口の病気と関連することを説明しています。
また、米国国立がん研究所も、無煙たばこに安全な形はなく、口腔がん、食道がん、膵臓がんを引き起こすと説明しています。
口腔がんは「早く見つけること」が大切
私自身、口腔外科の臨床では、口の中のできもの、治らない口内炎、白いできもの、赤いただれ、舌や歯肉の違和感などを診る機会があります。
口腔がんは、舌、歯肉、口底、頬粘膜、口蓋などに発生します。私の過去の記事でも書いているように、口腔がんの原因としては、喫煙、飲酒、合わない義歯や虫歯による慢性的な刺激、白板症などが挙げられます。症状としては、痛み、発赤、ただれ、違和感、潰瘍、白斑などがあります。

もちろん、オーラルたばこを使ったら必ず口腔がんになる、という話ではありません。しかし、口の中にたばこ製品を直接置く以上、歯科医師としては「問題ない」と軽く扱うことはできません。
国立がん研究センターの多目的コホート研究でも、喫煙と飲酒はいずれも口腔・咽頭がんのリスクを増加させ、日本人における口腔・咽頭がん予防には、喫煙せず、飲酒量を控えることが重要であるとされています。
海外での「低リスク」という議論をどう見るか
最近は海外でも、ニコチンパウチや無煙たばこを、紙巻きたばこよりリスクの低い選択肢として位置づける議論があります。
例えば米国FDAは、2026年6月30日に、特定のZYNニコチンパウチ20製品について、紙巻きたばこの代わりに使用することで、口腔がん、心疾患、肺がん、脳卒中、肺気腫、慢性気管支炎のリスクが低くなるという限定的なリスク低減表示を認めました。

ただし、ここで注意すべきなのは、「紙巻きたばこから完全に切り替えた場合の比較」であり、「安全な製品」と認められたわけではないという点です。また、このような評価は特定の製品に対するものであり、すべてのオーラルたばこにそのまま当てはめられるものではありません。
医療者としては、「紙巻きたばこより相対的にリスクが低い可能性」と、「非喫煙者や若年者が新たにニコチン依存に入るリスク」は分けて考える必要があります。
歯科医院で確認してほしいこと
オーラルたばこを使用している方は、歯科医院でそのことを伝えていただいた方がよいと思います。
特に、パウチを置いている部位の歯肉が白くなっている、赤くただれている、口内炎が2週間以上治らない、舌や頬粘膜にしこりや違和感がある、出血しやすい部分がある場合は、早めに歯科口腔外科を受診してください。
口腔がんや前がん病変は、早期に見つかれば治療範囲を小さくできる可能性があります。一方で、進行すると、食べる、話す、飲み込むといった生活機能に大きな影響を及ぼすことがあります。
まとめ
オーラルたばこは、煙が出ず、ニオイも少ないため、一見すると新しく便利な製品に見えるかもしれません。
歯科口腔外科の立場から見ると、「口の中に直接置いて使うたばこ」であることを忘れてはいけません。煙が出ないことは、口腔粘膜への影響がないことを意味しません。
大切なのは、広告やイメージだけで判断せず、ニコチン依存、口腔粘膜への刺激、歯肉への影響、口腔がんとの関係を冷静に考えることです。
今後、オーラルたばこを使う人が増えるのであれば、歯科医院でも使用状況を確認し、口腔粘膜の変化を早期に見つけることがますます重要になると思います。
この記事が、オーラルたばこについて考えるきっかけになれば幸いです。
参考文献・参照サイト
・産経ニュース「オーラルたばこに関する報道記事」2026年7月8日
https://www.sankei.com/article/20260708-5QYD2CC6EZIRFIHVZY5ZAY4NBI/
・VELO公式サイト「オーラルたばこパウチ VELO(ベロ)」
https://www.velo.com/jp/ja
・BATジャパン「オーラルたばこ『VELO』」
https://www.batj.com/brands-and-products/velo-oral-cigarettes
・厚生労働省「Q『噛みたばこ』、『嗅ぎたばこ』について」
https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/qa/detail6.html
・CDC “Health Effects of Smokeless Tobacco”
https://www.cdc.gov/tobacco/other-tobacco-products/smokeless-tobacco-health-effects.html
・National Cancer Institute “Smokeless Tobacco and Cancer”
https://www.cancer.gov/about-cancer/causes-prevention/risk/tobacco/smokeless-fact-sheet
・国立がん研究センター 多目的コホート研究「喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについて」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8090.html
・U.S. Food and Drug Administration “FDA Authorizes 20 ZYN Nicotine Pouches to Be Marketed with Specific Modified Risk Claim”
https://www.fda.gov/tobacco-products/ctp-newsroom/fda-authorizes-20-zyn-nicotine-pouches-be-marketed-specific-modified-risk-claim
・田島聖士「口腔がんとは?原因・症状・治療法について」
https://www.dental-oral-surgery.com/oral-cancer/



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