パラオでの歯科医療ボランティアについて

パラオでの歯科医療ボランティア活動 気になる歯科情報

私は2017年3月、2018年1月、2019年3月、2020年2月の4回、パラオ共和国のベラウ国立病院にてボランティア診療を行いました。

本記事では、パラオでの歯科治療ボランティアの経緯、内容、展望等についてまとめましたので、海外医療ボランティア活動の参考にして頂ければ幸いです。

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ボランティア診療の経緯

私がパラオでの歯科医療ボランティアを始めるに至ったのは下記のような経緯があります。
防衛省 海上自衛隊歯科勤務時の先輩である小澤幹夫先生が、自衛隊の仕事として2016年8月に行われた「パシフィック パートナーシップ16」(PP16)において、パラオ共和国での医療活動計画(歯科診療支援も含む)を担当していました。小澤先生がPP16の計画・調整・準備から医療活動までの全般を通じ、パラオ共和国には継続的な医療支援が必要だと感じ、培ったパラオの人々との縁を繋げて個人的な医療ボランティア活動を行いたいと考えたことが始まりです。

そこで、私はその考えに賛同し2017年から小澤先生と2人で医療ボランティア活動を開始しました。
現地には多くの患者さんがいること、日本の医療従事者がパラオの困っている人に貢献できる可能性が多いにあること、そして活動を通じて喜ぶ患者さんやスタッフの笑顔を見る事により日本での日常臨床でつい忘れてしまっているもの、医療の原点を感じることができたと思っています。

※パシフィック パートナーシップ(PP)は、防衛省・自衛隊が平成19年から参加している活動で、米海軍が主体となり米国と協調関係にある国が人員を派遣して実施する医療、施設補修、文化交流活動です。1年に1度、約3ヶ月間を通して米軍艦艇又は参加国艦艇を派出して、東南アジア地域の各国を訪問します。

パラオ共和国とは

面積: 459 km²
首都:マルキョク
人口: 21,503人 (2016年)
公用語:パラオ語、英語                                      
医療:国内に医師は30名弱しかおらず、医師不足が問題となっている。
その他:太平洋上のミクロネシア地域島々からなる国で日本との時差はない。
飛行機:直行便で約4時間半。トランジットする場合は、仁川(韓国)経由かグアム経由になる。

パラオの歴史

1885年:スペイン領東インドの一部となる。
1899年:ドイツ領ニューギニアの一部となる。
1914年:日本の委任統治領になる(第一次世界大戦後のパリ講和会議により)。
1922年:コロールに「南洋庁」を設置する。
1945年:終戦により日本の統治が終了する。
1947年:国連からアメリカ合衆国の信託統治を受ける事となる。
1981年:自治政府「パラオ共和国」が発足し、内政・外交権はパラオ共和国、安全保障はアメリカ合衆国が担う。
1994年:「パラオ共和国」として独立する(主要貨幣は米ドル)。

パラオ国旗の意味

日本の国旗は白地に赤丸、パラオの国旗は青地に黄色丸です。
私がパラオ保健省大臣に聞いた国旗に関する話で、パラオ人の親が子供に対して、下記のようなことを話すことが通例のようです。

親:パラオの国旗が黄色の丸になっているのは、何の理由があるか知っている?
子供:わからないよ。
親:黄色の丸はお月様なの。お月様が輝いているのはどういう時か分かる?
子供:わからない。
親:お月様は昼間に太陽が出ている日の夜に、綺麗に月が輝くでしょ。太陽は日本で、お月様はパラオなの。日本は戦争の時もパラオ人に対して教育をしてくれていたのよ。今も道路や橋は日本の援助で、日本の会社が作ってくれているものなのよ。

このようなお話が聞けて、パラオ人がとても親日である理由が分かった気がしました。

日本・パラオ友好の橋

パラオ人の慣習

パラオ国民の成人の多くは、ビートルナッツを口に入れる習慣があり、これにより口腔衛生状況に悪影響を及ぼしていると考えられます。
この習慣からの脱却が必要であり、口腔がん予防も含めた更なる口腔衛生に関する啓蒙活動が必要です。

※ビートルナッツ:ビンロウ、ビンロウジとも呼ばれ、太平洋・アジアおよび東アフリカの一部で見られるヤシ科の植物。ビートルナッツをキンマ(コショウ科の植物)の葉にくるみ、少量の石灰と一緒に噛む。場合によっては紙タバコを混ぜることもある。噛んでいると、アルカロイドを含む種子の成分、石灰、唾液の混ざった鮮やかな赤い液が口腔内に溜まる。
この赤い唾液は吐き出すのが一般的であるが、ビートルナッツには依存性があり、国際がん研究機関(IARC)はヒトに対して発癌性を示すとされています。

ベラウ国立病院

ベラウ国立病院は、米国から出資されたコロール島にある唯一の国立病院で、パラオ国民の健康管理、緊急治療、入院治療等を行う総合病院です。

病院には内科、外科、小児科、産婦人科、歯科以外のドクターがいないため、疾患によっては十分な検査や治療が受けられないという課題があり、高度な医療が必要な場合は、フィリピン(マニラ)等の海外の病院に移送しています。

また、24時間の救急もオープンしており、病床数は約100で、手術室、CTを含むX線なども装備され病院内に薬局も存在します。

診療に関するテンポラリーライセンス

ベラウ国立病院での診療は、事前に日本における歯科医師免許証や大学卒業証明書等の英訳版をパラオ保健省に提出し許可をいただき、パラオ保健省からテンポラリーライセンスを発行してもらい診療を行いました。

ベラウ国立病院 歯科診療部門

歯科医師4名、歯科衛生士9名、歯科技工士2名、歯科ユニット6台、デンタルX線装置はありますが、パノラマX線装置はありません。病院内にある医科用CTは歯科でも使用可能です。

歯科技工に関しては院内で有床義歯は作製していますが、クラウン・ブリッジの作製は行っていません。しかし、希望患者で費用を支払える方にはパラオで印象を取ってフィリピンへ送り作製し、ベラウ国立病院でセットしています。

歯科診療部門に対して十分な予算手当はなされてなく、これまで米国や日本を含めた諸外国からの支援により、歯科治療が維持されております。そのため、パラオの人にとっては草の根のような個人的な小さなボランティアでも重要と考えられます。

ボランティア開始当時のベラウ国立病院での歯科治療は、う蝕歯は抜歯せざるをえない場合が多く、日本と比較してまだ低い歯科治療水準にあることは否めませんでした。

ボランティア診療の内容

ボランティアとして単発的に現地の患者を治療(抜歯または応急処置)するだけでなく、継続的な活動や現地スタッフの歯科治療のレベル向上を目指すことが、パラオ国立病院の歯科治療水準を高めるために必要であると考えられました。

そこで、2017年のボランティアではC2は修復治療、C3は根管治療、C4は抜歯という標準的な歯科治療を行うように啓蒙していくことを検討し、診療だけでなく現地スタッフに対する教育も行わせて頂きました。

横浜都筑ロータリークラブからは、「ルートZX」(根管長測定器)を寄贈していただき、その使用方法、根管治療の仕方を現地スタッフにレクチャーすることもできました。

1日の患者数は、歯科医師1人当たり約8名で、治療内容は単純抜歯、難抜歯、埋伏智歯抜歯、根管治療、コンポジットレジン修復等でした。

【2017年】
ボランティア診療の様子

ドネーションの内容

【2018年】
ボランティア診療の様子

ドネーションの内容

現地歯科医師に根管治療の指導と歯科治療に関する講義も行いました

整形外科の吉田拓 医師も参加しました

【2019年】
ボランティア診療の様子

形成外科の須田俊一 医師も参加し、外来診察、外来手術(粘液嚢胞、眼瞼黄色腫、色素性母斑、軟性線維腫、ピアス穴の閉鎖)を行いました。

【2020年】
ボランティア診療の様子

形成外科の須田俊一 医師も参加し、外来診察、外来手術(軟性線維腫、皮膚線維腫、脂漏性角化症、色素性母斑、尋常性疣贅、顔面瘢痕)を行いました。  

その他の活動として、保健省から教育省の担当者を紹介いただき、パラオの小学校など計29校に絵本「えんとつ町のプペル」(西野亮廣著)を寄贈しました。

パラオ保健省・ベラウ国立病院の方々

パラオ保健省大臣から感謝状もいただきました

課題

歯科口腔外科
パラオの歯科事情として慢性的な歯科医師不足が挙げられ、BNH以外に開業医が2件しかない状況で、若い先生の育成や継続的なスタッフの派遣が望まれます。

歯科疾患に関してはう蝕・歯周病など様々な問題が山積しており、長期的には衛生士による口腔衛生指導の充実や、小児の段階でのう蝕予防や学校での歯科検診などの活動が必要です。

パラオでは口腔ケアの水準は低く、う蝕や歯周病に罹患する患者が増加しており、口腔衛生指導の啓蒙活動が必要です。また多くの国民がビートルナッツを噛む習慣があり、この習慣から脱する対策の考案も重要と考えられます。

患者の治療ごとにユニット全体を約20分消毒するシステムをとっているため、1時間に1人の患者しか診療ができない状況のため改善が望まれます。

歯科技工に関しては院内で有床義歯は作製していますが、クラウン・ブリッジの作製は行っていません。しかし、希望患者で費用を支払える方にはパラオで印象を取って、フィリピンへ送り作製して、ベラウ国立病院でセットしています。歯科診療部門に対して十分な予算手当はなされておらず、これまで米国や日本を含めた諸外国からの支援により、歯科治療が維持されている状況です。

義歯に関しては、パラオには咬合平面板がなく、咬合器も少ない状況です。印象採得の方法、咬合採得の方法についても教育が必要と感じました。

形成外科
家庭医と看護師の診療補助があり、スムーズに行うことができたが、外来処置室には滅菌された十分な数の治療器具がないこと、事前の打ち合わせが十分に出来ていなかったことにより、即時には対応できない症例(皮膚移植片壊死など)もありました。

また、外来診察室での手術中にライトが無かったためNsが携帯電話のライトで照らしながら手術を行いました。全身麻酔も可能な手術室もありますが、アメリカから医療支援で来ていた整形外科チームが使用していました。
ボランティア診療実施前の十分なコンサル、症例の把握が必要と考えられます。

パラオ(コロール島)

パラオ本島にある史跡には下記のようなものがあります。
特に、海軍墓地には毎回お伺いし、先の大戦で亡くなった英霊たちへ哀悼の意を表するとともに、献花もさせて頂きました。

パラオ海軍墓地

パラオの旧飛行場

パラオのホテルにて(パラオ パシフィック リゾート)

パラオの観光と料理

パラオ本島の美しい海や文化は世界複合遺産にも登録されています。
ダイビングスポットとしても有名ですが、様々なアクティビティを楽しめる観光スポットが沢山あります。私は少ししか観光していませんが、代表的な観光名所は下記のとおりです。

ロックアイランド
パラオの海(エメラルドグリーン)には、400以上ものマッシュルーム型の小さな島々が浮かんでおり、「ロックアイランド」と呼ばれています。

ジェリーフィッシュレイク
無数のクラゲと泳げることができる「ジェリーフィッシュレイク」があります。ここのクラゲは刺される心配がなく安心です。コロール島からボートで約30分のマラカラ島にあります。

ミルキーウェイとお弁当
ロックアイランドの一角に「ミルキーウェイ」と呼ばれるスポットがあり、ミルキーウェイの海底には乳白色の泥があります。この泥はミネラルや保湿成分が豊富な泥パックとしても有名です。
また、ツアーの昼食は「弁当」です。
パラオでは今でも簡単な日本語は通じ、日本文化も浸透しています。
「弁当」も通じますが、診療中では「痛い」や「大丈夫」などの日本語も通じることが多いです。

コウモリ料理
パラオをはじめとしたミクロネシアの国々では「コウモリ」が食べられており、現地の名物料理となっています。鶏肉のような感じでしたが、身が少ない印象でした。
私はコロールにある「カープ・シーフード・レストラン」でいただきました。

ペリリュー島

場所
ペリリュー島へは、コロール島からボートでロックアイランド海域を進み、約1時間30分かかります。

ペリリュー島
「ペリリューの戦い」が行われた場所であり、未だに各所にその名残が残っていました。

※ペリリューの戦い
大東亜戦争中の1944年(昭和19年)9月15日から11月27日にかけて「ペリリューの戦い」が行われました。
アメリカ軍の当初の計画ではペリリュー島を4日で攻略する予定でしたが、最終的に2ヶ月半を要することとなり、アメリカ軍の作戦計画を大きく狂わせることとなりました。
要塞化した洞窟陣地などを利用したゲリラ戦法を用い、日本軍が見せた組織的な抵抗戦術はアメリカ軍を苦しめ、後の硫黄島の戦いへと引き継がれていくことになります。

ペリリュー神社

ペリリュー島の観光

今後の展望

今後もパラオの医療に貢献できるようなボランティア支援および医療支援態勢の補助が必要と考えられますが、一方でボランティア支援慣れをしているというパラオの問題もあるかと思われます。これは、なかなか難しい問題です。単純なボランティアだけでは継続的・持続的な支援が難しいため、医科のようにパラオ政府から交通費や宿泊費等支給の検討も必要と考えられます。

現地には日本人歯科医師、また常時ではないのですがJICAからパラオに派遣されている歯科衛生士や歯科技工士が現地にいるため、日本人スタッフとも連携しての活動が重要と考えられます。

最後に、ボランティア診療を通じて感じていることは、日頃つい忘れてしまっている医療の原点、「医療人としてどうありたいか?」、日常生活においてあまり考える内容ではないですが、ボランティア診療を行うことにより、私はこのような事を考える貴重な時間となりました。 

皆さまも海外でのボランティア診療に興味のある方は、ぜひご検討下さい。

福岡県で開業されている小川允知先生らが、NGO(パラオで医療ボランティア活動を展開するPansy Project)を設立しているため、ご興味のある方は下記情報をご覧頂ければと思います。

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下記HPは2024年1月開設予定

https://pansy-project.com/

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