睡眠時無呼吸症候群について【患者様向け】

睡眠時無呼吸症候群 患者様向け情報

この記事では睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)について、これまでの臨床経験と知見を中心に患者様向けに詳しくまとめました。

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睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠中に上気道(空気の通り道)が狭くなることによって、無呼吸状態(10秒以上呼吸が止まること)と大きないびきを繰り返します。

症状

睡眠中に大きいいびきと無呼吸状態を繰り返します。

そのため、睡眠障害による日中の眠気・疲労感・集中力低下や低酸素血症による血圧上昇や起床時の頭痛などを引き起こします。
症状が長期間の場合、集中力や注意力が散漫となるほか、日中の居眠りにより生活に支障がでてきます。

また、睡眠時無呼吸症候群では高血圧、脳卒中、心筋梗塞が起こる危険性が上昇することも指摘されています。
睡眠時無呼吸症候群は単に大きないびきが出る病気ではなく、重度な合併症を引き起こすこともあるため、放置せずに検査を受けて必要であれば治療を行うことが大切です。

原因

睡眠中の無呼吸の原因により、閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)と中枢性睡眠時無呼吸(CSAS)に分類されますが、ほとんどが閉塞性睡眠時無呼吸です。

閉塞性睡眠時無呼吸は、睡眠中に上気道(空気の通り道)が狭くなり、一時的に塞がることによって発症します。
その主な原因は、肥満による首やのど周りの脂肪により、上気道のスペースが狭くなることによります。

その他にも生まれつきに舌、扁桃、アデノイドが大きかったり、下顎が小さかったりすることで、舌根沈下(舌が下に垂れ下がって上気道が狭くなる)により症状が出てきます。
また、慢性鼻炎や鼻中隔彎曲症などによっても、上気道が狭くなる原因として挙げられます。

検査

  • 簡易検査

睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合には、まず自宅で比較的容易に実施できる簡易検査を行います。
簡易検査では呼吸の空気の流れを感知するセンサーなどが装着されており、同時に酸素飽和度・脈拍数の変化も評価できます。気道の狭窄の程度や、低呼吸の有無を測定する睡眠評価装置により睡眠中の呼吸状態を検査します。

脳波や筋電図、眼球運動を測定できないため、レム睡眠・ノンレム睡眠などの詳しい睡眠状態、睡眠時間、無呼吸低呼吸指数(AHI: Apnea Hypopnea Index)を正確に評価できないことがあります。

  • 終夜睡眠ポリグラフ検査(ポリソムノグラフィー:PSG)

簡易検査で睡眠時無呼吸症候群の疑いと診断された場合、終夜睡眠ポリグラフ検査を行います。
終夜睡眠ポリグラフ検査は睡眠時無呼吸症候群の確定診断をする際に実施する検査法で、基本的に入院して行います。

終夜睡眠ポリグラフ検査は、夜間睡眠中の脳波・心電図・酸素飽和度・血圧・筋電図・眼球運動などを連続的に測定し、それを統合して評価します。

終夜睡眠ポリグラフ検査では、AHI(1時間あたりの無呼吸や低呼吸の回数)を正確に評価することができます。無呼吸は10秒以上呼吸が停止している状態で、低呼吸とは換気の明らかな低下と動脈血酸素飽和度が4%以上低下している状態が10秒以上続くことです。
AHIが5以上+いびきや日中の眠気等の症状で、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。

軽度:AHIが5~15
中等度:AHIが15~30
重度:AHIが30以上
※AHI20以上(PSG)がCPAP治療の保険適応

  • エプワース眠気尺度検査(ESS:Epworth Sleepiness Scale)

セルフチェックで睡眠の評価を行う簡単な睡眠検査です。
合計点数が11点以上だと睡眠時無呼吸症候群の疑いが強いと考えられます。

  • Mallampati(マランパチ)分類

大開口で声を出さずに舌を完全に突出させた状態で、咽頭がどの程度見えるかの分類です。
気道確保や気管挿管の難易度の指標でもありますが、睡眠時無呼吸症候群を見つける簡易検査にも用いられます。3度、4度では、睡眠時無呼吸症候群である確率が高くなります。

1度:扁桃、口蓋垂、軟口蓋が完全に見える
2度:硬口蓋、軟口蓋、扁桃の上部、口蓋垂が見える
3度:軟口蓋、硬口蓋、口蓋垂の基部が見える
4度:軟口蓋も見えなく、硬口蓋のみが見える

  • 画像検査

喉、鼻、舌の異常が原因のこともあるため、X線検査やCT検査などで異常がないことを確かめることもあります。

治療

  • 生活指導

1.ダイエット
軽症の睡眠時無呼吸症候群の場合、体重の減量のみで効果が期待できます。
重症の場合は、CPAP療法を併用して減量を行っていくことが効果的です。

2.タバコ
喫煙による血中酸素濃度が低下と咽頭・喉頭部の炎症により睡眠時無呼吸症候群を悪化させるため禁煙が必要になります。

3.アルコール
飲酒によって気道の閉塞や狭窄になりやすいため、寝る前の飲酒を制限します。

4.睡眠時の姿勢
仰向けで寝る場合、重力により舌が下がる(舌根沈下)ため、気道狭窄や閉塞が起こります。そのため、横向きに寝るようにします。

  • スリープスプリント(マウスピース)治療

マウスピースを用いた治療は軽度の睡眠時無呼吸症候群と診断された患者さん、中等症から重症患者さんでCPAP療法が合わずに継続ができない場合に使用します。

マウスピースにより下顎や舌を前方に出した状態を維持することで、上気道(空気の通り道)に適度なスペースを作り無呼吸や低呼吸を改善する方法です。

歯科で歯の型取りをして作製します。マウスピースは下顎を5~10mm程度、前方に出した状態で、上と下の歯を固定するように調整します。空気の通りがスムーズになるため、無呼吸やいびきが起こりにくくなります。

※スリープスプリント(保険適用)を作製するには
内科、呼吸器科、耳鼻咽喉科などで睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、その診断書を歯科に出してください。
保険診療でスリープスプリントを作製するには、その診断書が必要になります。

※症例写真(スリープスプリント、軽度の睡眠時無呼吸症候群)
・AHI:14
・ESS:15点
・Mallampati分類:2度

  • CPAP療法(持続陽圧呼吸療法:Continuous Positive Airway Pressure)

終夜睡眠ポリグラフ検査でAHIが20以上で、日中の眠気などの症状を認める場合、CPAPによる治療を行います。
CPAP療法とは、睡眠中に鼻につけたマスクから持続的に空気を流し圧力(陽圧)をかけ気道を広げて閉塞を防ぐことにより無呼吸や低呼吸を改善する治療方法で、中等症から重症の患者さんが適応です。

マスクの違和感や空気ポンプの音が気になる場合もありますが、CPAP療法では速やかに効果が期待できると考えられています。
簡易検査でAHI 40以上、または終夜睡眠ポリグラフ検査でAHI 20以上が保険適応となります。

  • 手術

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の場合、アデノイド切除術、扁桃摘出術、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術などの気道を拡大させる手術を行う方法があります。

今回は睡眠時無呼吸症候群についてまとめてみました。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。

葵会グループ
AOI国際病院 歯科口腔外科部長(神奈川県川崎市川崎区)
医療創生大学 歯科衛生専門学校校長(千葉県柏市)
田島聖士

【参考文献】
・新版家族のための歯と口の健康百科(伊藤公一他、医歯薬出版株式会社)

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