上顎洞迷入異物(歯根・インプラント等)の摘出について

上顎洞迷入異物 インプラント 歯科関係者向け情報

この記事では、上顎洞内に迷入した異物に関してまとめ、特に犬歯窩アプローチで内視鏡下による摘出方法について詳細に記載しました。

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上顎洞迷入異物とは

上顎洞迷入異物は、そのほとんどが歯科治療に関する歯根、インプラント、切削バー、根管充填剤等の医原性異物です。

歯根の上顎洞異物は、解剖学的要因から上顎第一大臼歯部からの迷入が多いです。上顎第一大臼歯部は特に上顎洞底が低く、歯根が洞内に突出していることが多いためとされています。そのため、上顎臼歯部の残根抜歯には注意が必要です。

近年はインプラント治療の普及に伴い、それに伴うトラブルも増加しています。
インプラント埋入、サイナスリフト、ソケットリフトによる上顎洞関連のトラブルも多く1) 、上顎洞炎や上顎洞内インプラント迷入も散見され、上顎洞合併症への対応も必要になってきています。
また、上顎洞迷入医原性異物による上顎洞炎の合併は、80%以上の症例に認めたとの報告2)もあります。

上顎洞の機能について

上顎洞(副鼻腔)は、換気と排泄によっての機能を正常に保っています。

換気不全の要因としては、上顎洞自然口と中鼻道自然口ルート(ostiomeatal complex、OMC)の狭窄による閉塞であり、これは鼻・副鼻腔形態によるものと上顎洞粘膜の肥厚により起こります。

上顎洞粘膜には粘液線毛機能と粘膜免疫機能があり、換気と排泄のサポートをしています。
洞粘膜の線毛運動のため、上顎洞異物が自然口から排泄されることがあります。

インプラントが篩骨洞へ排泄された症例3) 、ゼクリアバーが自然口から排出しされ誤飲誤嚥して胃内部へ移動し胃内視鏡で摘出した症例4)も報告されています。

自然口よりサイズが小さい上顎洞異物は排泄されてしまう可能性があるため、術前にCTを撮影して、異物の位置確認が重要と考えられます。

上顎洞迷入異物の摘出方法

・抜歯窩や埋入窩を拡大しての摘出

抜歯窩や埋入窩からのアプローチは視野が狭く手術操作の範囲が限られること、上顎洞異物の位置が数日で変わってしまうため、即日での処置が必要となります。
また、骨削除量が大きくなると、術後に口腔上顎洞瘻になる可能性も高くなってしまいます。

・犬歯窩よりCaldwell-Luc法での摘出

犬歯窩からアプローチするCaldwell-Luc法には、上顎洞の処置として洞粘膜を温存する上顎洞開放術と洞粘膜を摘出する上顎洞根本術があります。
この手術では上顎洞が事実上消失してしまうため、現在行われることは少なくなっています。

・犬歯窩アプローチで内視鏡下による摘出

歯肉を切開剥離後、犬歯窩に骨窓を開け内視鏡を挿入し、上顎洞異物を吸引して摘出する方法です。
通常は静脈内鎮静下、または全身麻酔下で手術を行います。内視鏡を用いることで、低侵襲かつ短時間での手術が可能です。

・経鼻的内視鏡下による摘出(耳鼻咽喉科)

通常、全身麻酔下で鼻(下鼻道経由)から内視鏡を挿入して、肥厚している下鼻甲介の粘膜等をマイクロデブリッダーで掻爬して進み、上顎洞異物摘出をする手術です。必要に応じて内視鏡下副鼻腔手術(ESS)を併用することも可能です。
この手術では上顎洞の形態が温存され、洞粘膜の粘液線毛機能を始めとする副鼻腔の機能改善も得られる術式です。

摘出手術の実際(犬歯窩アプローチで内視鏡下による摘出)

・術前のCT画像所見

右上6番の遠心根に残根が確認できました。
右側上顎洞は粘膜肥厚による陰影が確認でき、自然口付近に残根が認められました。
篩骨洞に陰影は認められませんでした。

術式

全身麻酔下で手術を行いました。
局所麻酔実施後、右上4番近心と右上7番遠心に縦切開と歯肉溝切開を入れ、全層弁で歯肉剥離を行い、まず右上6番の残根抜歯をしました。
次に、右上4~5番の根尖相当上部の犬歯窩に5mm×10mmの骨窓を開けました。
術前CT写真の矢印のように、骨窓から残根ができるだけ真っすぐに確認できる位置に骨窓を開けるようにしました。

耳鼻科用内視鏡ファイバーカメラ(0度)を骨窓から挿入し、自然口付近に迷入している残根を確認し吸引して摘出しました。
5-0ナイロンで縫合閉鎖を行い手術終了としました。

上顎洞内に迷入した歯根やインプラント等の異物を摘出する際は、このような術式で摘出をしています。この記事が少しでも参考になれば幸いです。

【参考文献】
1) 日本顎顔面インプラント学会学術委員会:「インプラント手術関連の重篤な医療トラブルについて」調査報告書.顎顔面インプラント誌11:31―39,2012.
2) 中山むつみ, 藤井一省, 斎藤成明: 上顎洞内歯科材料異物の1 症例ならびに最近の上顎洞異物に関する文献的考察. 耳鼻咽喉 1983; 55: 535–541.
3)大井祐太朗、館野宏彦、高倉大匡, 他:歯科インプラントによる篩骨洞異物の1例. 頭頚部外科誌 29(3): 333-336, 2019
4)明石昌也、李進彰、石田佳毅, 他:上顎洞内異物が自然排出された1例. 日口外誌54(3): 210-213, 2008.

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